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第3回:宇宙に放り出されたら何秒もつ?― 温度より先に来る現実

宇宙・ミステリー

さて、いよいよ最終回です。

ここまで2回かけて、宇宙の温度について長々と考えてきたわけですが、ようやく見えてきたことがあるんですよね。

  • 宇宙は単純に寒い場所じゃない
  • 真空はむしろ最強クラスの断熱環境
  • 本当に怖いのは、温度そのものより「熱の管理ミス」

ここまで読んでくれた方なら、たぶん同じ感想を持っているはず。「思ってた宇宙と違うな……」と。

で、最終回となる今回は、シリーズ通してずっと避けてきた、いちばん物騒な疑問にようやく踏み込みます。

人間が宇宙空間に生身で放り出されたら、いったいどうなるのか。

映画でよく見るのは、一瞬で凍りついて、ピシッと砕け散って、はい終了、というアレ。あれを見るたびに「いやでもそんな一瞬で凍る?」とモヤッとしていた身としては、ずっと気になっていた問題なんです。

結論からいうと、現実はもうちょっと地味で、そのぶん、かなりエグい。順番に整理していきましょう。


まず起きるのは「寒さ」じゃない

意外に思うかもしれないけど、宇宙に放り出された人間にとって、最初に問題になるのは、

温度ですらないんですよね。

一番最初に襲ってくるのは、

気圧ゼロ問題

宇宙空間は、ほぼ完全な真空とされています。地上で当たり前に体を押している1気圧が、ゼロに近づくわけです。これが何を意味するかというと、

  • 肺の中の空気
  • 血液中に溶けているガス
  • 体液に含まれる気体成分

こういうものが一気に外に出ようとする、ということ。地上にいる限りピンと来ない話ですが、要するに「体の中身が、外の真空に引っ張られて外向きに膨らもうとする」状態です。

ここで重要なポイントがあって、

「爆発する」わけじゃない

このへんは映画演出のいちばん盛りすぎているところで、人体は風船みたいにパンッとはいきません。皮膚と筋肉と骨が、思っているよりちゃんと持ちこたえてくれるらしいんですよね。

ただし、

「沸騰する」現象は起きるとされている

体温36℃前後でも、気圧が極端に下がると体液は沸点に達してしまう(と言われています)。これがいわゆる「低圧症」と呼ばれる領域の話で、聞いた瞬間にゾッとする現象なんですよね。


人間は風船じゃないけど、無事でもない

よくある誤解として、

「宇宙に出たら人間は破裂する」

これは半分ウソ、と言われています。NASAなどの実験や事故報告を踏まえても、皮膚は意外と頑丈で、パンッとはいかない(とされる)。

ただし、無事かというと、まったく無事じゃない。

  • 唾液が口の中で沸騰する(と言われている)
  • 目や粘膜は一気に乾いてダメージを受ける
  • 血液中に溶けていたガスが泡になる(減圧症の極端版)
  • 体の柔らかい部分が、内側から膨らむ

これがほぼ同時にドカッと起きる、というのが研究者の言うリアルらしいんですよね。文字に書くだけで気分が悪くなってきますが、正直、想像したくない。

ちなみに、「破裂はしないけど膨らむ」というのは、宇宙服の設計思想にもしっかり反映されていて、要は「体液を外に逃がさないようにギュッと押さえる仕組み」が組み込まれているんだとか。人間ってつくづく、自前のスペックでは宇宙に向いていない生き物なんだなと。


意識があるのは、だいたい10秒前後

シリーズを書いているあいだ、いちばんよく聞かれたのがここでした。

宇宙に放り出されたら、いったいどれくらい意識があるのか

これ、いろんな資料や実験データをざっくりまとめると、

おおむね10〜15秒程度が目安と言われています

意外と「もっと粘れそう」と思った方も多いんじゃないでしょうか。短いけど、ゼロ秒ではない。逆に「思ったより一瞬」と感じた方もいるかもしれません。

理由はとてもシンプルで、脳に酸素が届かなくなるからなんですよね。

ここで地味に大事なのが、

  • 真空に出た瞬間、肺の中の酸素はむしろ外に押し出される
  • なので「息を止めればしばらく持つ」は逆効果で、肺を傷めるリスクが高い(とされる)
  • 結果として、脳に届く酸素は急速にゼロに近づく

このタイミングでは、

  • まだ凍っていない
  • まだ焼けてもいない
  • 見た目は意外と普通

つまり何が起きているかというと、純粋な酸欠で意識がスーッと落ちる、というだけの話。

逆に言えば、この10秒ちょっとの間に船内へ戻れれば、後遺症が残るとしても助かる可能性はある、とも言われています。宇宙飛行士の訓練に「減圧時の冷静さ」が重視されるのは、この秒数の中で正しい判断ができるかが命を分けるからなんですよね。

人間、酸素が切れた瞬間の脆さだけは、地上でも宇宙でも変わらない。


「凍る」は、かなり後

映画でよくある、宇宙に出た瞬間に一瞬でカチコチ、というあのシーン。

あれは、ほぼ演出と考えてよさそうです。

実際に起こるのは、

凍るまでにかなり時間がかかる、という現象。

理由はシリーズの前回までで何度も触れた、あの話につながります。

  • 真空は、最強クラスの断熱材
  • 熱は基本的に「物質を介して」伝わる
  • 物質がない真空では、放射でしか熱が逃げない

だから人体は、放り出された瞬間にバキッと凍るわけじゃなくて、じわじわ、じわじわ、外向きに熱を放射しながら冷えていく。これにはたぶん、想像よりずっと長い時間がかかるはずなんですよね。

問題はそのスピード感の前に、もっと早い時計が回ってしまっていること。

  • 数秒で気圧ゼロのダメージ
  • 10秒ちょっとで酸欠による意識喪失
  • 凍るのは、そのあとの「最後の問題」

つまり、温度シリーズの結論として身も蓋もないことを言うと、宇宙空間で人間を一番先に追い詰めるのは温度ではない、ということ。温度は、列の最後尾に並んでいる悪役なんですよね。


逆に「焼ける」こともある

ここで、もうひとつの地獄パターンも触れておきます。

もし放り出された瞬間に、太陽光が直撃する位置にいたら?

  • 直射日光あり
  • 大気による減衰なし
  • 風による冷却もなし

この三拍子がそろうと、結果として、

体の表面はどんどん加熱されていく

これも「燃え上がる」というよりは、「加熱され続ける」感じに近いと言われています。地上での日焼けが何百倍も濃縮された状態、と考えるとイメージしやすいかもしれません。

おもしろい(というか怖い)のは、太陽に向いた面と、その反対側で温度差がえげつないことになる、という点。シリーズ第2回で書いた「熱を逃がす場所がない」問題が、まさにここでも牙を剥くわけです。

どっちに転んでも、人間に優しくない。宇宙、本当にこちらの都合を一切聞いてくれない場所なんですよね。


じゃあ宇宙は「暑い」のか「寒い」のか

ここで、シリーズ第1回で投げた最初の疑問に戻ります。

宇宙は、暑いのか、寒いのか。

3回かけて出た答えは、

どっちでもない

もう少し正確に言うと、

「暑い/寒い」という人間の感覚自体が、そもそも通用しない場所、という結論です。

温度は確かに存在する。粒子の運動エネルギーとしての温度は、ちゃんと定義できる。ただ、地上のように空気や水を介して熱が伝わる前提が崩れているから、

  • 「寒そう」と感じる直感も
  • 「暑そう」と感じる直感も

両方が、それぞれ別の意味でズレている、というのが正しい理解なんですよね。

このシリーズを通して一番伝えたかったのは、ここかもしれません。地上のルールで宇宙を語ろうとすると、必ずどこかでつまずく。逆に言えば、宇宙の話を一段深く理解したいときは、まず「地上の感覚を一度脇に置く」のがコツだったりします。


小市民的・最終まとめ

宇宙って聞くと、つい、

  • ロマン
  • 無限の可能性

そういうキラキラしたイメージが先に来てしまうんですよね。

でも、シリーズ3回ぶん理屈を積み上げてみた実態は、わりと身も蓋もない。

人間向けに一切調整されていない環境、これに尽きます。

  • 空気なし
  • 安定した温度なし
  • ちょっと油断したら即終了

それでも人類は、知恵と技術と、地味な工夫を積み重ねて、無理やりそこに住みに行っている。

  • 宇宙服
  • 宇宙船
  • ISS(国際宇宙ステーション)

これらは全部、

「人間は弱い」という前提から逆算して設計されているわけです。

このスタンス、考えてみるとちょっと好きなんですよね。「人間は強い」「人類最強」みたいなノリじゃなくて、「うちらは弱いから、ちゃんと守る装備を作ろう」と粛々と積み上げていく感じ。なんというか、小市民的というか。

というわけで、「宇宙の温度」シリーズ、ここで完結とします。第1回で漠然と感じていた「宇宙って結局どんな場所?」という素朴な疑問は、3回ぶん遠回りした結果、「人間の感覚が通用しない、けど人間が頑張って住もうとしている場所」という、ちょっとだけ解像度の上がった答えにたどり着けた気がします。

次にSF映画で宇宙遭難シーンを観るとき、

「これは温度の問題?それとも酸素の問題?」
「真空でこの動きはちょっと盛りすぎでは?」

なんて考えながら観ると、たぶん、ちょっとニヤッとできるはず。

シリーズを最後まで読んでくれて、ありがとうございました。日常に役立つかと言われると微妙ですが、「夜空を見上げる目線が、ほんの少しだけ変わった」くらいの土産になっていれば、それで十分です。

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