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うなぎ屋の継ぎ足しダレが何百年経っても腐らないって、よく考えたら怖くない?と思って調べたら、最強のブランド戦略だった件

食材と食文化

うな重を食べるとき、ふと思ったんですよね。

「このタレ、創業から継ぎ足し百五十年って書いてあるけど…百五十年前のタレ、まだ入ってるの?(マジで?)」

しかもよく考えたら、毎日フタを開けて、生のうなぎを浸して、また閉じて。常温で置いてある店もある(らしい)。普通に考えたら、雑菌の楽園じゃないですか。タッパーに入れた昨日のカレーですら怪しいのに、なぜタレ壺だけは何百年も生き残れるのか。

ちょっと気になって調べてみたら、これがもう「老舗の知恵 × 微生物学 × ブランド論」が一気に詰まった、めちゃくちゃ深い話だったんですよね。今日はその話をしていきます。

「百年継ぎ足し」って、本当に百年前のタレが残ってるの?

まず最初にぶち当たる疑問がこれ。

結論からいくと、「百年前の分子」が残っているわけではない、と言われています。タレは毎日減って、毎日継ぎ足されるので、中身は少しずつ入れ替わっていくんですよね。

イメージとしては、川の水に近いです。隅田川の水は江戸時代から流れているけど、今日流れている水分子は江戸時代のものではない。でも「隅田川」という連続した存在として、ずっとそこにある。タレも同じで、「分子としての連続」ではなく「風味としての連続」が継ぎ足されているわけです。

単純計算してみると、毎日タレの1割が新しく入れ替わると仮定すれば、短ければ数ヶ月、長くても数年程度でほぼ入れ替わる、とされています。つまり物理的には新しい。にもかかわらず「百五十年前から続く味」と言えるのは、菌叢(きんそう)と糖・アミノ酸組成の”型”が引き継がれているから、と考えられているんですよね。

これ、組織論で言う「文化の継承」とまったく同じ構造で、ちょっと震えました(笑)。

なぜ腐らない?タレの「自衛システム」を分解してみる

ここからが本題。なぜ毎日フタを開け閉めしているのに、腐らないのか。

調べてみると、ざっくり4つの防御メカニズムが同時に働いていると説明されることが多いようです。

1. 高い糖度と塩分

うなぎのタレは基本、醤油・みりん・砂糖・酒の組み合わせ。煮詰まるとこれらの濃度が上がって、水分活性(微生物が使える水の量)がぐっと下がるんですよね。

ジャムが腐りにくいのと近い理屈です。微生物にとって「水が使えない環境」=「住めない環境」。砂糖と塩は、味付けと同時に防腐剤としても効いている、ってわけです。ただしジャムほど糖度は高くないので、これ単体では不十分。あくまで複数の防御の一枚として効いている、というのが実態に近いみたい。

2. 毎日の加熱

老舗のうなぎ屋では、営業前後にタレを火にかける店が多いとされています。沸騰近くまで温度を上げ直す店もあれば、焼きたてのうなぎを浸けることでタレ自体が常時60度以上に保たれ、結果的に低温殺菌されている、とも言われています。やり方は店ごとに違うようですが、いずれにしても、ほとんどの雑菌が死滅する温度帯を、毎日通過させているわけです。

つまりタレ壺は、毎日リセットされる釜でもあるんですよね。これがめちゃくちゃ大きい。常温で何百年放置されているわけではなく、実は毎日「殺菌」と「継ぎ足し」のサイクルが回っている。聞くと当たり前だけど、これを365日、何代にもわたって続けるのは並大抵じゃない。

3. うなぎの脂と焼き香

うなぎを浸すたびに、表面の焼けた脂と香気成分がタレに溶け出していく。脂は水と分離して上層に膜を作るので、酸素との接触を物理的に減らす働きもあると言われています。

しかも焼いた香りには、抗酸化作用を持つメイラード反応の生成物(メラノイジン等)が含まれているとされ、これがタレの劣化を遅らせるという見方もあります。毎日の焼き工程が、味だけじゃなくて保存性にも貢献している、というわけ。

4. 独自の「菌叢バランス」

そして一番おもしろいのがここ。長年継ぎ足されたタレの中には、そのタレ独自の微生物バランスができている可能性がある、と考えられています。ただし、そもそもタレは発酵食品ではないという指摘もあります(小泉武夫氏)。なので発酵食品「に近い」イメージくらいに、控えめに捉えておくのがよさそうです。

無菌ではなく、「悪い菌が住めない環境を、いい菌(あるいは無害な菌)が占拠している」状態かもしれない、というイメージ。仮にそうだとすれば、先住民が強すぎて、新参者の悪玉菌が入り込めない、という構図に近くなる、と考えられています。

これ、長く続いているご近所付き合いと同じだなと思いました(笑)。顔なじみの空気が出来上がっている町内には、不審者がふらっと入り込みにくい。タレも町内も、生態系で守られている。





「江戸時代から継ぎ足し」って本当?老舗の謎

ここでもう一個の疑問。「創業◯◯年、タレも創業以来継ぎ足し」という店、たくさんありますよね。あれ、本当なの?

調べてみると、諸説ありというのが正直なところみたいです。たとえば東京の老舗うなぎ店の中には、戦災や災害でタレ壺ごと失われたという伝聞もあれば、「防空壕に持ち込んで守った」と伝えられる店もあるんですよね。

つまり「継ぎ足しの連続性」自体が、店の物語であり、ブランドの核そのものなんですよね。真偽を超えて、”守ろうとした執念”こそが価値になっている。

ここがすごく面白いところで、仮に分子レベルでは入れ替わっていたとしても、「絶やさず継ぎ足してきた」という事実とストーリーには、誰にも真似できない重みがある。新規開業の店が「うちも今日から継ぎ足し始めます!」と宣言しても、絶対に追いつけない。時間そのものが、参入障壁になっているんです。

これ、ブランド論的にめちゃくちゃ強い。広告費でひっくり返せない種類の価値、っていうやつ。





「継ぎ足し」って、仕事のメモにも似てるなと

タレの構造をじっと眺めていて、ふと自分の仕事のメモ帳を思い出したんですよね。

新人の頃から続けている、ただの議事録メモ。最初の頃は誤字だらけで、論点もズレていて、読み返すと恥ずかしい。でも消さずに、毎日ちょっとずつ追記して、過去の判断をたどれる状態にしている。それを十年やっていると、「あのとき、なぜこの結論にしたのか」が、自分でも驚くくらい鮮明に出てくる。

これ、まさに継ぎ足しタレなんですよね。古い分子(=最初の議事録)はもう実用的には残っていないけど、判断の”型”だけは確実に引き継がれている。新しい案件にぶつかったときも、ゼロから考えるんじゃなくて、過去のメモに今日の一行を継ぎ足す感覚で挑める。

これがあると、ちょっと気が楽になるんです。

家庭で「継ぎ足し」を真似するなら?

「じゃあ家でも継ぎ足しタレやってみたい!」と思った人、ちょっと待ってください。家庭で完全な継ぎ足しは、正直おすすめしにくいんですよね。

理由は単純で、老舗の「毎日の使用頻度」と「火入れの徹底」が、家庭では再現しにくいから。週に一度しか使わないタレを継ぎ足し続けると、菌叢が安定する前に雑菌が優位になりやすい、と言われています。

もし家庭でやるなら、こんな感じが現実的かなと。

  • 使うたびに必ず沸騰させる
  • 使用頻度が低いなら冷蔵保存
  • 異臭・カビ・分離が見えたら即廃棄
  • 継ぎ足しは”1〜2週間サイクル”くらいで割り切る

老舗の技を家庭で完コピするより、「自分なりの小さな継ぎ足し文化」を作る方が、たぶん楽しい。月に一度の焼肉ダレでも、季節ごとのめんつゆでも、継ぎ足すというより”育てる”感覚で向き合うと、料理がちょっと面白くなる気がします。






まとめ:時間こそが、最強のブランド

整理するとこんな感じ。

  • 「百年前の分子」は残っていないが、菌叢と組成の”型”は引き継がれている
  • 腐らない理由は、糖・塩・加熱・脂・菌叢バランスの合わせ技
  • 「継ぎ足し」というストーリー自体が、真似できないブランド価値
  • 同じ構造は、人生やキャリアにも応用できる

うな重を食べるとき、これからはちょっと違う見方ができそうです。あの甘辛いタレは、ただの調味料じゃなくて、何代もの店主が毎日火にかけ、継ぎ足し、守ってきた時間そのもの。一口食べるたびに、百年分の判断と労働を味わっているわけですよね。

そして自分の仕事メモも、今日の一行が、十年後の自分のタレに、そっと一滴加わっていく。そう考えると、地味な日常の積み重ねも、ちょっと愛おしく見えてくるわけです(笑)。

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