休日の昼下がり、ベランダで洗濯物を干しながら、なんとなく空を見上げてました。
雲ひとつない青空、そして燦々と降り注ぐ太陽光。
「あったかいなぁ……」と思った瞬間、ふと変なことが気になったんですよね。
「太陽って、あんなに激しく燃えてるんだから、すごい音出てるんじゃないの?」と。
地球の火山ですらゴゴゴゴ……と地響きを立てるのに、地球の130万倍ほどの体積を持つ巨大なガスの塊が、毎秒とんでもない核融合反応を起こしてるわけです。
無音なはずがない(笑)
でも宇宙空間は真空だから、音は伝わらない。じゃあ「音は出てるけど、聞こえない」のか、「そもそも音という概念が成立しないのか」、どっちなんだ?と。
気になり始めたら止まらなくなって、調べ始めたんですよ。そしたらこれが、想像をはるかに超えるスケールの話だったんです。
太陽の中では「音」が常に鳴っている

まず結論から言うと、太陽は鳴ってます。それも、想像を絶する重低音で。
これを研究する分野は「太陽振動学(helioseismology/ヘリオサイスモロジー)」と呼ばれていて、太陽の表面が常に細かく上下に振動している現象を観測する学問なんですよね。地震学(seismology)の太陽版、ってわけです。
仕組みをざっくり言うと、こうなります。
太陽の内部って、中心の核で核融合反応が起きてて、そのエネルギーが外に向かって運ばれていきます。表面に近い「対流層」と呼ばれる領域では、お湯を沸かした鍋みたいに、熱いガスが上昇して、冷えて沈む、というグラグラした対流が起きている。
この対流が起こす圧力の揺らぎが、太陽内部に音波を発生させるんです。
そして、その音波が太陽内部を反射しながら閉じ込められて、特定の周波数で「共鳴」している。これが「p-モード振動(pressure mode、圧力モード)」と呼ばれる現象なんですよね。
周期は約5分、つまり……
ここからが面白いところで、観測されている代表的な振動の周期は、約5分だと言われています。
5分。
人間の耳が音として聞こえる下限は20Hzくらい(周期0.05秒)と言われています。
それに対して太陽の振動は、周期5分。
要するに、人間の耳には到底聞こえないくらい低い「重低音」ってことです(マジで?)。
仮にこれを聴覚で捉えられるとしたら、超低音すぎて「音」というより「揺れ」として体に響くレベル。クラブのウーファーどころの話じゃない、地球そのものが共鳴しちゃう周波数なわけです。
なぜ「太陽の音」を観測できるのか

「真空の宇宙を伝わらないなら、どうやって観測してるの?」というのが、当然の疑問ですよね。
これも調べてみたら、めちゃくちゃ巧妙な仕組みでした。
直接「音」を聴いているわけじゃなくて、太陽表面が音波で揺らされて動いている様子を、光の色のわずかな変化から読み取っているんです。
たとえば救急車のサイレンが、近づくときは高く、遠ざかるときは低く聞こえますよね。あれと同じことが光でも起きていて、表面のガスがこちらへ動けば光の色がほんの少し青寄りに、向こうへ動けば赤寄りにズレる(ドップラー効果と呼ばれる現象です)。
このわずかなズレを丁寧に測ってあげると、「いま太陽表面のここが何メートル/秒で動いてる」がパッと分かるんですよね。
そのデータを地球規模でかき集めて解析すると、振動のパターンが浮かび上がってくるってわけです。
SOHO衛星という偉大な観測者
代表的な観測装置として有名なのが、SOHO衛星(Solar and Heliospheric Observatory、ソーホー)。
NASAとESA(欧州宇宙機関)の共同プロジェクトで、1995年に打ち上げられました。
地球と太陽の間にある、両者の重力がうまく釣り合う特別な場所に置かれていて、そこから太陽を24時間観測し続けている。
このSOHOに搭載された観測装置(MDIなど)が、太陽表面の振動を高精度で記録してきました。これによって、太陽内部の構造――どの深さにどんな密度のガスがあるか、対流層と放射層の境界はどこか――が驚くほど詳しくわかってきたんです。
つまり、外から内側を「音」で透視してるんですよ。
人間の体を超音波エコーで見るのと、まったく同じ発想(笑)
太陽が「響いてくれる」おかげで、その内部レントゲンが撮れちゃうわけです。
「真空でも歌う」の意味を哲学的に考えてみる

ここで、最初に気になっていた「真空だから音は伝わらないはずなのに」問題に戻ります。
これ、答えは案外シンプルで――。
太陽の内部はガスで満たされているので、そこは「真空ではない」。
だから、太陽の中では普通に音波が成立する。
でも、太陽の外(宇宙空間)はほぼ真空なので、その音は外には漏れない。
つまり太陽は、「閉じた巨大楽器」みたいな状態なんですよね。
ギターでいうと、弦が振動して胴の中で共鳴してるけど、ホールの外には音が出ていかない、という感じ。
ただ、ここでさらに面白いのが、音波そのものは外に出なくても、太陽の中で生まれているエネルギーは、光や熱や太陽風として宇宙に放出されているってこと。
つまり、太陽の「響き」は音としては届かないけど、その振動を生んでいるエネルギーそのものは、光に乗って地球まで届いてる。
物理学的に言えばちょっと飛躍するかもですが、こう解釈することはできます。
私たちが太陽の光を浴びて「あったかいなぁ」と感じているとき、その温もりの源には、太陽内部の重低音の鼓動がある。
8分19秒前(光が地球に届くまでの時間)に、太陽の中で響いていた振動の余韻を、私たちは皮膚で受け取っている。
なんかこう、考えるだけで壮大じゃないですか?
宇宙のあちこちで「歌う」星たち

ちなみに、振動しているのは太陽だけじゃないんですよ。
太陽振動学を一般化した「星震学(asteroseismology/アストロサイスモロジー)」という分野があって、他の恒星の振動も観測されているんです。
NASAのケプラー宇宙望遠鏡(2009年打ち上げ、2018年運用終了)などのミッションが、たくさんの恒星の明るさのわずかな変動を捉えて、それぞれの星の音色を分析してきました。
星のサイズ、年齢、内部構造によって、奏でる「音」の周波数や響き方が違う。
巨大な赤色巨星はゆっくりした重低音、小さな矮星は比較的速い揺れ。それぞれが、それぞれの音色を持っている。
つまり宇宙全体が、無数の楽器が合奏するサイレントオーケストラみたいなもの、と表現することもできるんですよね。
真空のせいで聞こえないだけで、銀河中で星たちは鳴り続けている。
このイメージ、正直ちょっとロマンチックすぎて、調べた本人がいちばんビックリしました(笑)
私たちもまた「振動の一員」
そして話は地球まで戻ってきます。
太陽からのエネルギーで植物が育ち、その植物を食べて動物が生き、私たちもそのエネルギーを使って体温を保ち、心臓を動かしている。
物理学的に言えば、私たちの体内の化学反応は、もとをたどれば太陽の核融合エネルギーが姿を変えたもの。
つまり、太陽が鳴らしている重低音と、その光を浴びて生きている地球の生命は、エネルギーの大きな流れのなかでつながっている、と言えるわけです。
そう考えると、なんか日常の見え方がちょっと変わってきません?
まとめ

ベランダの日向ぼっこから始まった疑問、思いがけず壮大な話になりました。
整理すると――。
- 太陽内部は対流で揺らされ、約5分周期の音波が共鳴している(p-モード振動)
- 真空の宇宙を音は伝わらないが、太陽自体は閉じた楽器として鳴り続けている
- その振動はドップラー効果でSOHO衛星などが観測しており、太陽内部の構造解明に貢献している
- 同じ手法を他の恒星に応用したのが星震学で、宇宙には無数の「響く星」がある
- 太陽のエネルギーが地球の生命を動かしている以上、私たちもこの巨大な合奏の一員と言えなくもない
明日もまた洗濯物を干すんですが、たぶん日向ぼっこの感覚がちょっと変わると思います。
「ああ、いま太陽の重低音、皮膚で浴びてるな」って(笑)
科学を知ると、日常がちょっと豊かになる。
こういう瞬間があるから、知るって面白いんですよね。
みなさんも、たまには空を見上げて、聞こえない歌に耳を澄ませてみてください。


コメント