「あいつはろくでなしだ」なんて言い方、時代劇でよく聞きますよね。字面のインパクトが強いせいか、なんとなく「どうしようもない悪党」みたいなイメージで使ってしまう言葉です。
でも、ふと思ったんですよ。「ろく」って、そもそも何なんだ? と。
「ろくでなし」を分解すると「ろく・で・なし」。つまり「ろく」が「ない」ってことですよね。ということは、「ろく」という何かが、まず存在するはず。それが欠けているから「ろくでなし」なわけで。
で、この「ろく」を調べてみたら——まさかの「平らな地面」にたどり着いたんですよね。
しかもこれ、ただの雑学で終わらせるにはもったいない話でして。「まともじゃない人」って、実は誰が決めてるんだろう? という、ちょっと背筋がスッとする問いにつながっていったんです。ゆっくりほどいていきます。
推理: たぶん「碌」って漢字がヒントだよね

まず「ろくでなし」を漢字で書くと「碌でなし」。この「碌」という字、けっこう見慣れないですよね。石へんに「録」の右側。
正直に言うと、最初はこの漢字が語源そのものだと思ったんです。でも調べてみると、どうやら「碌」は当て字らしい、と。つまり音に合わせて後からあてがった漢字であって、意味の本体は別のところにあるっぽいんですよね。
じゃあ本体はどこだ、と。ここで手がかりになるのが、もう一つの漢字表記——「陸でなし」なんです。
「陸」。りく、と読むあれです。海に対する陸地の陸。……いやでも、「陸がない人」って言われても意味が通らないじゃないですか。人間はだいたい陸にいるわけで(笑)。
ここで引っかかったまま、もう一段だけ深く潜ってみたんですよね。そうしたら、「陸」にはぼくらが学校で習ったのとは別の読み方と意味があった、というところに行き着きました。
解明: 大工さんの世界では「陸」は“水平”を指す

結論から言うと、「ろく(陸)」は、建築や大工の世界で「水平・平らで狂いがないこと」を指す言葉なんですよね。「りく」ではなく「ろく」と読む。ここが今日いちばんの肝です。
海の反対の「陸地」という意味の陸ではなくて、「まっすぐで、水平で、きちんと整っている状態」を指す専門語としての「ろく」。有力な語源説では、これが「ろくでなし」の「ろく」の正体だと言われています。
「陸墨(ろくずみ)」という言葉が残っている
大工さんの用語に「陸墨(ろくずみ)」というものがあります。これは、建物を建てるときに基準となる「水平の線」を引くための墨のこと。柱や壁がまっすぐ立っているか、床が傾いていないか——その基準になる、まさに「水平の正義」みたいな線なんですよね。
ここでの「陸」は完全に「水平・平ら」の意味。「陸地」はまったく関係ありません。同じ漢字でも、職人の世界では別の顔を持っていた、というわけです。
「水平=正常」→「ろく=きちんとした」へ
そして面白いのがここから。「水平で狂いがない」という物理的な状態が、だんだん比喩に転がっていったんですよね。
床が水平で、柱がまっすぐで、狂いがない家——それは「まともな家」です。そこから「ろく」という言葉が、「きちんとしている」「まともである」「役に立つ」という意味へと広がっていった、と言われています。
だから、「ろく」を否定すると——「まともでない」「役に立たない」「きちんとしていない」になる。「ろくでなし」の完成です。ついでに「ろくでもない」「ろくに寝てない」あたりも全部この一族。「ろくに◯◯しない」って、要は「きちんと◯◯できていない」ってことなんですよね。
言葉の出発点が「地面が平らかどうか」だったなんて、けっこう意外じゃないですか。
もう一段深掘りすると: そもそも「完全な平ら」なんて無い

「ろく」の正体が「平らで水平で、狂いのない状態」だとすると——「ろくでなし」とは、平らな地面から外れた人、ということになりますよね。そこにきちんと収まっている人が「ろくな人」で、はみ出した人が「ろくでなし」。
ただ、ここでちょっと立ち止まりたくて。
実はこのブログで前に、雨の日に道路が水浸しにならない話を書いたんですよね。あのとき驚いたのが、「平らに見える道路は、実はミリ単位で傾いている」という事実でした。水をはけさせるために、わざと少しだけデコボコさせてある。完全に水平な道なんて、現実にはほとんど無いんです。
つまり「完全な平ら」なんて、そもそも自然界にはあんまり無い。人間が「まっすぐが正しい」と決めて、後から地面をならしているだけ、とも言えるわけで。だとすると、「平らな道からはみ出したかどうか」を基準に人を測るのって、案外あやふやな話なのかもしれないな、と思ったんですよね。
小市民の学び
「ろくでなし」の「ろく」は、建築の世界で「水平・平ら」を指す言葉で、そこから「まとも・役に立つ」の意味になり、その否定形が「役に立たない人」になった——と言われています。言葉の出発点は、地面が平らかどうか、だったんですよね。
だとすると、「ろくでなし」かどうかは、結局「みんなと同じ平らな道に乗っているか」でしかない。それは、その人の価値そのものとは、たぶん別の話なんです。
会社を辞めた人、周りが右のとき一人だけ左を選んだ人。もっと小さく言えば、みんながやる下ごしらえをすっ飛ばす台所の一手や、周りと違う子育ての選び方だって、はみ出した瞬間はちょっと「ろくでなし」寄りの目で見られたりしますよね。でも、そのデコボコを無理に平らにならさなくてもいいのかな、と。……なんて、平らな道が大好きな小心者のぼくが言っても、あんまり説得力はないんですけどね(笑)。

キョウの余談
実は今日、水平器のアプリをスマホに入れて、家じゅうの棚を測ってみたんですよ。そうしたら、お気に入りの本棚が地味に傾いてました(笑)。何年も気づかず使ってたわけで、うちの「ろく」、けっこう前から崩れてたみたいです。
キョウからの次の1本
「自分にダメ出ししすぎてない?」という人には、「ダメ」って実は“空き地”のことだった、という記事を。今日の「ろく」と同じで、責める言葉の出どころを辿ると、案外やさしい地形が見えてくるんですよね。
次回予告
デコボコ道の話の次は、目が冴える話を。コーヒーを最初に見つけたのは人間じゃなくてヤギだった、という説があるんですよね。しかも踊っていたらしいです(笑)。


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