七月の電気代の検針票を見て、しばらく黙ってしまいました。
今年は暑い日でも極力「冷房」を避けて、ずっと「除湿」で粘っていたんですよね。部屋を冷やしすぎないほうが体にもいいし、なにより除湿のほうが電気を食わないはずだ、と。子どもの頃からなんとなくそう信じていました。
なのに、金額が思ったほど下がっていない。むしろ去年と大差ない。
エアコンの前に立って、リモコンをしばらく眺めました。「冷房」と「除湿」。並んでいるだけで、どっちがどう違うのかは、実はちゃんと説明できない。長年つき合ってきたわりに、この二つのボタンのことを何も知らないままでした。
推理: まず疑ってみたこと
最初に立てた仮説は単純です。除湿は部屋を冷やさない。冷やさないなら、その分だけ電気を使っていないはずだ。だから安い。
ただ、ここで引っかかったんですよね。
湿気を取るというのは、要するに空気の中から水を集めて外に捨てるということです。目に見えない水蒸気を、わざわざ水の粒に戻さないといけない。それを「冷やさずに」やる方法なんて、あるんだろうか。
そこまで考えて、嫌な予感がしました。もし除湿も内部では冷やしているのだとしたら、「冷やさないから安い」という前提そのものが崩れます。

解明: 仕組みをほどいてみる
空気から水を取る方法は、ほぼ一つしかない
冷たい麦茶を入れたコップの外側に、水滴がびっしりつくことがあります。あれは、コップに触れた空気が急に冷やされて、抱えきれなくなった水蒸気が水に戻ったものです。
空気は温かいほどたくさんの水蒸気を抱えられて、冷えると抱えきれなくなる。だから「冷やす」と水が出てくる。除湿の原理は、基本的にこれと同じでした。
エアコンも中で同じことをやっています。取り込んだ空気を熱交換器でぐっと冷やして、水滴に変えて、ドレンホースから外へ流している。夏場に室外機のあたりからちょろちょろ水が出ているのは、部屋の空気から絞り出された水分というわけです。
つまり、除湿も冷やしている。ここは冷房と変わりません。
では何が違うのか。分かれ道は、水を取ったあとの空気をどうするか、でした。
除湿には二つの流派がある
ひとつめが弱冷房除湿。冷やして水を取ったあと、その冷えた空気をそのまま部屋に戻します。
やっていることは弱めの冷房そのもので、だから電気の使い方も控えめです。ただ、冷たい風がそのまま出てくるので、肌寒く感じることがある。梅雨の涼しい日に除湿をつけたら足元が冷えてきた、という経験、ありませんか。あれです。
もうひとつが再熱除湿。冷やして水を取ったあと、その空気を温め直してから部屋に戻します。
出てくる空気が冷たくないので、寒くならずに湿気だけ減らせる。快適さでいえば、こちらのほうが明らかに優秀です。
お察しのとおり、ここで電気を余計に使います。せっかく冷やした空気を、わざわざ温める。冷やす仕事と温める仕事を同時にこなすことになるので、その一手間の分だけ電気代は上がるわけです。
ちなみに、いまの機種はヒーターを焚いて温めているわけではないそうです。冷やすときにどうしても出てしまう熱を、捨てずに再利用して温め直している。無駄をしているというより、忙しく働いている、という感じでしょうか。

順番を見ると、思い込みが崩れる
具体的な数字も出ています。東京電力が2002年に行った試験結果を、いまの省エネ性能と電気料金単価に換算した目安として、こんな値が紹介されていました(室内も外も24度・湿度80%、電気料金は31円/kWh〈2025年時点〉。真夏というより、梅雨どきの想定です)。
- 弱冷房除湿 …… 1時間あたり 約5.3円
- 冷房 …… 1時間あたり 約12.4円
- 再熱除湿 …… 1時間あたり 約16.8円
冷房より安い除湿と、冷房より高い除湿が、両方あったわけです。
もとは2002年の試験なので、金額そのものより「弱冷房除湿 → 冷房 → 再熱除湿」という順番のほうを見てください。この順番だけは、どの資料を見てもだいたい一致していました。
「除湿にしておけば安い」と信じていた自分は、運が良ければ当たっていたし、悪ければ一番高いモードを選び続けていたことになります。……検針票が下がらなかった理由に、心当たりが出てきました。
自分のエアコンがどっちなのかは、リモコンで分かる
ここが一番実用的なところだと思うのですが、方式はリモコンのボタンの名前でだいたい見分けられます。
たとえば日立の場合、リモコンに「カラッと除湿」があれば再熱除湿方式、「除湿」なら弱冷房方式、「eco除湿」は外の気温や部屋の状況に応じて両方式を自動で切り替えるタイプ、と案内されています。カタログや取扱説明書の機能表で見る場合は、「カラッと除湿」なら再熱除湿、「3モード除湿」や「ソフト除湿」なら弱冷房除湿。
呼び名はメーカーごとに違いますし、最近は両方式を組み合わせたハイブリッド型もあります。自動で切り替わるタイプなら、基本はおまかせで大丈夫。肌寒いと感じたときだけ、素直に冷房へ回すほうが結果的に安く済みます。
確実なのは取扱説明書を開くことなんですが、まずはリモコンを裏返してボタンの名前を眺めてみる。それだけでも、自分が毎晩どちらを押しているのかは見当がつきます。

もう一段深掘りすると
ここまで書くと再熱除湿が悪者みたいですが、たぶん違います。
再熱除湿が高いのは、無駄なことをしているからではなく、難しい注文に応えているからなんですよね。「部屋は冷やさないでほしい。でも湿気は取ってほしい」というのは、物理的にはけっこう面倒な要求です。冷やさないと水は取れない。でも冷えた風は出したくない。その矛盾を、温め直すという力技で解決している。
だから再熱除湿の電気代は、無駄の代金ではなく、寒くしないための代金です。梅雨時の肌寒い日、洗濯物を部屋干ししているとき、小さい子どもやお年寄りがいる部屋。そういう場面では、その代金を払う価値はあると思います。
そのうえで使い分けを整理すると、こうなります。
- 暑くはないけれど、じめじめが不快 → 除湿の出番
- 暑いし、湿気も不快 → 冷房のほうが向いている
真夏に部屋の温度そのものを下げたいなら、素直に冷房を使うほうが目的にも合っているし、電気代の面でも理にかなっている。除湿は「省エネモード」ではなく、「湿度を狙って下げるための機能」だったわけです。
名前が並んでいると、つい上下や優劣で考えてしまいます。でもこの二つは、優劣ではなく担当が違うだけでした。
小市民の学び
今回いちばん効いたのは、ラベルの名前ではなく中の仕組みを見ないと損をする、という当たり前のことでした。
「除湿」という言葉はやさしい響きがします。冷やさない、控えめ、体にも財布にも優しそう。その印象だけで十年以上ボタンを押してきて、実は一番高い選択をしていたかもしれない。やさしそうな顔をしているものが、いつも安いとは限らないんですよね。
同じことは、たぶんエアコン以外にもあります。うちの洗濯機にも「おまかせ」というボタンがあって、たぶん十年近く押し続けているんですが、あれが何を見て何を決めているのか、一度も確かめたことがない。やさしい名前のボタンほど、中を見ないまま押してしまうんですよね。
とりあえず今夜、リモコンのボタンの名前だけ確かめてみてください。三十秒で終わりますし、その三十秒で、来月の検針票の見え方がちょっと変わるかもしれません。
キョウの余談
検針票を片手にエアコンの前で腕を組んでいたら、家族に「そこで何と戦ってるの」と真顔で聞かれました。戦っていたのは十年ぶんの思い込みです、とは言えなかった。分かった直後の自分は、だいたい説明が下手になります。
キョウからの次の1本
「気づかないうちに電気を使っていた」つながりで、こちらもどうぞ。テレビが消えているのに少しだけ起きている理由を知ったら、『何もしない時間』への罪悪感が薄れた件。待機電力の話ですが、読み終わると家電への当たりが少しやわらかくなります。
次回予告
電気代の計算で疲れたので、次はもう少し夢のある数字の話を。宝くじが当たっても税金を取られないのはなぜか──あの「非課税」、実は親切心ではないところが面白いんですよね。


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