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宝くじの当せん金は非課税だと知って国に感謝しかけたんですが、法律を開いたら300円のうち110円弱はもう納め終えていました

政治・経済

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駅前の宝くじ売り場に、夏になると行列ができます。

先日その横で信号待ちをしていたら、勝手に皮算用が始まりました。仮に一等の前後賞まで当たったとして、税金でどのくらい持っていかれるんだろう、と。

会社勤めを長くやっていると、金額を見た瞬間に手取りを想像する癖がつきます。額面と手取りは違う。臨時収入ならなおさら重いはずで、ポスターに七億円と貼ってあっても実際に残るのは……と、買ってもいないくじの手取りを真剣に計算していました(我ながらどうかしている)。

帰って調べたら、答えは一行で終わりました。

宝くじの当せん金は非課税。

拍子抜けです。福引の景品にも、懸賞の賞金にも、競馬の払戻金にも、原則として一時所得の扱いで税金はかかります(といっても一時所得には年50万円の特別控除があるので、小さな当たりで税金が出ることはまずないのですが)。なのに宝くじはお咎めなし(実はスポーツくじのtoto・BIGも同じ非課税組です)。国がここだけ急に優しくなる理由が、どうしても腑に落ちませんでした。

推理: まず疑ってみたこと

優しさではないだろう、というのが最初の直感でした。

税金の仕組みを調べるたびに思うのは、そこに「取りこぼしを許す設計」がほとんど無いことです。宝くじだけ例外にする理由が、夢とか庶民感情とかであるとは考えにくい。条文にそんなことを書く役所は、ちょっと想像がつかない。

「懸賞金・競馬=課税」「宝くじ=非課税」の分かれ道の前で腕を組み、なぜここだけ通れるのかを疑うキョウ

次に考えたのが、当たる人が少なすぎて徴収の手間が合わないのでは、という線。ただ、それなら少額の払戻しが大量に出る競馬のほうが、よほど手間に合わないはずです。なのにそちらは課税されている。むしろ当せん金が高額な宝くじこそ、取りに行く価値がある。理由になっていません。

そこで、残った可能性はひとつでした。

当たった人から取らないのは、もう別のところで取り終えているからではないか。

税の話でこの構図が出てくると、だいたい当たりです。取っていないように見えるときは、たいてい取る場所がずれているだけだったりします。

というわけで、根拠になっている法律を開いてみました。

解明: 法律を開いてみたら、目的が最初に書いてあった

非課税の根拠は、たった一行

宝くじを支えているのは、当せん金付証票法(昭和23年法律第144号)という法律です。名前がすでに堅い。

その第13条に、当せん金品については所得税を課さない、と一行だけ書いてあります。以上。理由も条件もなし。ここだけ読むと、やっぱり優遇に見えます。

面白いのは、この法律の第1条のほうでした。

第1条が、制度の正体を先に自白している

条文をそのまま引くと、こうです。

この法律は、経済の現状に即応して、当分の間、当せん金付証票の発売により、浮動購買力を吸収し、もつて地方財政資金の調達に資することを目的とする。

……娯楽の提供、とはどこにも書いていません。夢の「ゆ」の字もない(売り場の行列に並ぶ人たちを思い出して、ちょっと申し訳ない気持ちになりました)。

「浮動購買力を吸収し」というのは、要するに世の中に浮いているお金を集めるという意味です。そのうえで、目的は地方の財源をつくることだと最初に宣言している。夢を売る制度ではなく、お金を集める制度ですよ、と法律自身が一行目で言っているわけです。

戦後まもない時期にできた法律なので言い回しが古いのですが、「当分の間」がもう七十年以上続いているあたりも、なかなか味があります。

しかも、胴元の取り分が法律で決まっている

さらに読み進めると、第5条にこんな趣旨の規定がありました。当せん金品の総額は、発売総額の5割に相当する額を超えてはならない。

上限が法律で決められている、というのがポイントです。売り上げの半分より多くは、原則として当せん金に回さない。裏を返せば、残り半分の行き先は、最初から決まっている。

宝くじ300円の内訳を円グラフで示し、自治体の取り分109円を指さすキョウ

300円の中身を開けてみる

では実際どう配られているのか。宝くじ公式サイトが年度ごとの内訳を公開しています。令和6年度は販売実績額7,598億円で、当せん金が46.5%、収益金が36.2%、印刷経費や売りさばき手数料などが16.0%、社会貢献広報費が1.3%。

このうち「収益金」が、発売元である全国の都道府県と20の政令指定都市に納められます。宝くじを発売しているのは国ではなく自治体で(総務大臣の許可制です)、集まったお金は高齢化・少子化対策、防災対策、公園の整備、学校や社会福祉施設の建設・改修などに充てられている、と説明されています。

この割合(宝くじ全体の平均です)を300円のくじ1枚に当てはめると、だいたいこうなります。

  • 当せん金の原資に …… 約139円
  • 自治体の財源に …… 約109円
  • 印刷や売り場の経費に …… 約48円
  • 広報などに …… 約4円

割合は年度によって少しずつ動きますし、そもそも数字選択式くじまで含めた全体の平均なので、これはあくまで令和6年度実績のおおよその目安です。それでも、3割6分ほどが買った時点で自治体へ流れているという構図は、そう大きくは変わりません。

つまり、こういうことでした。

当たった人から税金を取らないのは、買った人全員から先に取り終えているから。

役所がそう説明しているわけではないのですが、お金の流れを追うとそう読めます。非課税は優遇ではなく、二重取りをしないというだけの整理。国が優しくなったわけではなくて、レジの順番が違っただけ。当せん者が窓口に立つ頃には、集金はとっくに終わっていました。

もう一段深掘りすると

ここからは、当たった後の話です。夢のない注意点ですが、知らないと困る側の話でもあるので触れておきます。

いちばん引っかかるのは、非課税なのは「当たった本人が受け取るところまで」だということ。

たとえば当せんした後、そのお金を家族や友人に分けたとします。この時点で、渡されたお金は「宝くじの当せん金」ではなく「人からもらったお金」。贈与税の対象になり得ます。せっかく税金がかからなかったのに、分けた瞬間に別の税金が顔を出す。ここ、ちょっとずるいと思いませんか。

だから共同購入のときは、最初から全員の名前で買って、受け取りにも全員で行く(都合がつかなければ委任状を用意する)のが基本だと案内されています。代表者ひとりが受け取って後から山分け、が一番ややこしい。

もうひとつ。当せん者が亡くなって、残った当せん金を家族が引き継ぐ場合。これは相続財産なので、相続税の対象になります。当せん時に非課税だったことと、その後ずっと非課税であることは、別の話でした。

ちなみに当せん金は所得として扱われないので、住民税もかかりません。年末調整にも確定申告にも影響しないし、会社に何か届け出る必要もない。ここは素直にありがたい。

ただし金額や家族構成、受け取り方で扱いは変わりますし、制度も改正されます。実際に当たってしまった方(うらやましい)は税理士さんか最寄りの税務署へどうぞ。ここでは「非課税は入口だけ」という地図が1枚あれば十分です。

当せん金が本人の手元にある間は非課税、家族へ分けると贈与税、相続すると相続税に変わる分岐図

小市民の学び

今回いちばん効いたのは、得したように見える瞬間、たいてい前払いは済んでいるという感覚でした。

年会費無料のカードも、送料無料の通販も、どこかに料金は溶かしてあります。無料や特典や非課税は、それ単体で見ると誰かが損をかぶっているように見えるけれど、まあ、そんなうまい話はない。

数えてみたら、優しさだと思っていたものが手続きの順番でした。ちょっとがっかりして、ちょっと安心した、というのが正直なところです。

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とはいえ、だから宝くじは損だ、という話にはしたくありません。年に一度、300円で「もし当たったら」を数日ぶん楽しめるなら、娯楽として十分に成立していると思います。実際、当たらなかったところで、その300円が消えてなくなるわけでもない。

そのうち109円ほどは、たぶん、どこかの街の公園のベンチや、防災倉庫や、学校の屋根の修理になっている。そう思うと、外れくじの手ざわりが少しだけ変わります。夢のほうは外れたけれど、もう半分の役目は、買った時点で果たし終えていたらしい。

ところで、みなさんの財布にも、結果を確かめていないくじ、眠っていませんか。

キョウの余談

原稿を書きながら財布を整理していたら、三年前のスクラッチくじが出てきました。削ってすらいない。夢を買った自覚もないまま、財源にだけは静かに貢献していたようです。

キョウからの次の1本

贈与税のところで「なぜ、あげるだけで税金がかかるのか」が気になった方はこちらもどうぞ。贈与税って、あげるだけなのに税金がかかるの?と思ったら、お金の”出口渋滞”を防ぐ仕組みだった件。今回の「分けた瞬間に別の税金が出てくる」理由が、裏側からつながります。

次回予告

お金の話が続いたので、次は台所へ移動します。カレーライスの生まれ故郷はインドだと思っていたら、パスポートに別の国のスタンプが押してあった──あの黄色い皿が日本に着くまでの、少し遠回りな航路の話を。

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