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明け方の木星に「地球を守ってくれてありがとう」と言いかけたら、彗星を放り込む疑いがかかっていた件

宇宙・ミステリー

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目覚ましより早く目が覚めてしまった朝、二度寝もできそうになかったので、ゴミ袋を持って外に出ました。

空はまだ群青色。東の低いところに細い月が浮かんでいて、そのすぐそばに、ほかの星とは明るさの違う点がひとつ光っていました。

スマホの星空アプリをかざすと、表示は「木星」。

そこで思い出したのが、昔テレビの科学番組か何かで見た話です。木星はとにかく大きいので、宇宙から飛んでくる彗星や小惑星を先に引き受けて、地球を守ってくれている。

ゴミ袋を片手に、あの明るい点に向かって「地球を守ってくれてありがとう」と言いかけました(笑)。

ところが家に戻って「木星 地球を守る」あたりから調べていくと、話はそう単純ではありませんでした。たどり着いたのは、「Jupiter – friend or foe?」、日本語にすると「木星は味方か、敵か」という題の論文です。しかも副題を変えながら、続きものになっている。

地球の用心棒だと思っていた相手に、「彗星をこっちへ放り込んでいるのでは」という疑いがかかっていたわけです。

お礼を言うのは、事情を聞いてからでも遅くない。木星の言い分を、順番に確かめてみることにしました。

推理: 木星は太陽系の掃除機だと思っていた

推理・木星は太陽系の掃除機

それでも、論文を読む前の推理は「やっぱり用心棒」でした。

根拠は、木星の大きさです。NASAのデータでは、木星の重さは地球の約320倍。重いほど重力は強いので、近くを通る彗星や小惑星を引き寄せる。しかも地球より外側を回っているから、外から来るものを先に吸い込んでくれるはず。いわば、太陽系の掃除機です。

この推理を後押しする計算もありました。1994年のある研究によると、木星ほど大きな惑星が育たず、天王星や海王星くらいの惑星しかない惑星系では、彗星がぶつかる回数が太陽系の約1000倍になりうる。知的な生命が育ちにくいかもしれない、とまで踏み込んでいます。

1000倍(思わず二度見しました)。木星クラスの惑星がいてくれてよかった、という気持ちが一気に強くなります。

おまけに木星には、「現場写真」まであります。

1994年の夏、シューメーカー・レヴィ第9彗星が20個あまりのかけらになって、1週間ほどのあいだに次々と木星へ突っ込みました。NASAによれば、太陽系の2つの天体がぶつかるところが観測されたのは、これが初めて。木星の雲には地球ほどの大きさの黒いあとが残り、数か月も見え続けたといいます。

やっぱり地球の身代わりに……と言いたくなるところですが、この彗星、もともと木星につかまって、木星のまわりを回っていたものでした。その少し前に木星へ大接近したとき、木星の重力でばらばらに割れて、やがて落ちていった。地球へ向かう途中で止められた、という話ではなかったんですよね。

状況証拠としては、ちょっと弱い(笑)。推理は「用心棒寄り」のまま保留にして、研究の中身を見にいきます。

解明: 木星の重さだけを変えて、ぶつかる数を比べた人たち

相手で変わる木星の2つの顔

答え合わせの材料になるのが、あの「木星は味方か、敵か」のシリーズです。

ホーナーさんとジョーンズさんを中心とする研究者たちの論文で、やり方が推理ものっぽくて面白い。今の太陽系をそのまま使って、木星の重さだけを軽くしたり重くしたりしながら、地球にぶつかる天体の数を軌道の計算で比べています。

相手にしたのは、地球にぶつかりうる天体の3種類。先に結果だけ並べると、こうなりました。

  • 遠くから来る彗星: 木星が重いほど、地球への衝突が減る
  • 周期の短い彗星のもと: 今の木星がいても、いなくても、ほぼ同じ
  • 小惑星: 木星が今の2割ほどの重さのとき、衝突がいちばん多い

見事にばらばらです。

用心棒の顔: 遠くから来る彗星は、外へはじき出す

「遠くから来る彗星」は、太陽系をぐるりと囲む「オールトの雲」からやって来る、周期の長い彗星のこと。その多くは、太陽系の内側に初めて入ってきたとき、木星の重力で外へはじき出されるそうです。

ここはテレビで見た話のとおり。用心棒、ちゃんと仕事をしています。

減らしもしない顔: 周期の短い彗星のもとには、効き目なし

「周期の短い彗星のもと」は、木星より外側の不安定な軌道をさまよう氷の天体で、ケンタウルス族と呼ばれます。こちらは今の木星がいても、木星がまったくいなくても、地球にぶつかる数はほぼ同じ。

用心棒としては、だいぶ厳しい成績です。

しかもこの天体の一部は、巨大な惑星の重力で内側へ送られて、周期の短い彗星になります。木星のすぐ外側に、その「玄関口」と呼べる領域がある、という研究まであります。放り込みの疑いが出てくるのは、このあたりからです。

小惑星には「いちばん危ない重さ」があった

小惑星帯から来る小惑星は、さらにややこしい結果です。衝突がいちばん多くなったのは、木星の重さが今の2割ほどのとき。土星くらいか、それより少し軽い木星です。

今の木星は、その最悪の重さに比べればずっとまし。それにしても「中くらいの大きさがいちばん危ない」とは、掃除機の推理からはまったく出てこない答えです。

結局、木星はどっちなのか

シリーズのまとめで著者たちは、木星が本当に味方と言えるのはオールトの雲の彗星だけ、と書いています。ただし小惑星と周期の短い彗星のもとについても、土星くらいの重さの惑星がいるよりは、今の木星のほうがはるかにまし、というひと言付きで。

推理を後押ししてくれた「1000倍」にも、「天体の置き方が、効果を大きく見せていたかもしれない」と、同じシリーズの中でやんわりツッコミが入っていました。

つまり用心棒か放り込み犯かは、相手が誰かで変わる。掃除機の推理も、当たっていたのは一部だけでした。外へはじき出しもするし、内側へ通しもする。掃除機というより、流れてくるものを外と内に振り分ける、太陽系の仕分け係のほうが近い気がします。

オールトの雲に、ケンタウルス族。この話を家族にしようとしたら、身ぶり手ぶりだけでは太陽系ごと迷子にさせてしまいそうです。

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放り込み犯の顔と、その裏にもう一枚

もう一人、木星の二面性をそのまま題名にした研究者がいます。NASAのジェット推進研究所にいたグレイジャーさんの論文で、題は「Jupiter: Cosmic Jekyll and Hyde」。宇宙のジキルとハイド、です。

こちらは、巨大な惑星どうしのすき間に置いた小さな粒の動きを、長い時間計算したもの。外側から地球へ向かう彗星を木星がさえぎる力は低く、むしろ木星は土星と組んで、かなりの割合の粒を、地球の軌道と交わる内側の道筋へ蹴り込んでいました。

用心棒どころか、パスの出し手です。

ところが、グレイジャーさんの話はそこで終わりません。木星のような惑星が生命にとって大事なのは、盾だからではなく、水のような生命に必要な物質を内側へ運ぶ役目のほうではないか、と提案しているんです。

放り込んでくるのが、厄介ものだけとは限らない。悪いほうだと思っていた顔の裏に、配達員の顔がもう一枚あるかもしれない、という話です。推理小説なら、終盤でもう一度ひっくり返すやつですね。

木星では今も、ときどき何かが光っている

屋上の望遠鏡と木星の閃光

ここまでは計算の話でしたが、木星に何かがぶつかる瞬間は、日本からも実際にとらえられています。

2010年の夏には熊本のアマチュアの立川正之さんが木星の閃光をビデオに収めていて、2021年の秋には、京都大学の有松亘さんたちが、キャンパスの建物の屋上に置いた観測システムで閃光をとらえました。望遠鏡もカメラも市販品の組み合わせです。それまで地上からとらえられた木星の閃光は、どれもアマチュアの方が観測中に偶然見つけたもの。閃光を見張る専用の装置で見つけたのは、これが初めてだったとのこと。

このシステムの名前が、PONCOTS(ポンコツ)。英語の正式名称の頭文字をとった、れっきとした略称です。

こちらも小さなアプリを作っていますが、自分の作ったものに「ポンコツ」と名づける度胸はまだありません。小さな不具合ひとつで冷や汗なのに、向こうはポンコツで大発見です(笑)。

閃光のエネルギーは、1908年に地球で起きたツングースカ大爆発に匹敵する大きさ。研究チームはこの観測から、同じくらいの衝突が木星ではおよそ年に1回(ただし誤差は大きい)起きていて、地球での同じ規模の衝突よりずっと多い、と見積もっています。

ただ、木星にたくさんぶつかっていることと、それが地球の分を肩代わりした結果なのかは、別の問題です。

小市民の学び

あの朝、ゴミ袋を片手に言いかけた「地球を守ってくれてありがとう」は、宛先を絞れば言ってもよさそうでした。遠くから来る彗星については、木星はたしかに外へはじき出す側。周期の短い彗星のもとや小惑星については、守っているとも、放り込んでいるとも言い切れません。

感謝状を出すか、容疑者のままにするか。どちらかに決めるつもりで調べ始めたのに、最後はグレイジャーさんの提案で、配達員かもしれないという別の顔まで出てきました。判定は、しばらく持ち越しです。

木星はいま、夜明け前の東の空に戻ってきています。国立天文台やアストロアーツの星空情報によると、9月の終わりから10月にかけてひときわ明るく見えていて、10月7日の明け方には細い月が近くに並ぶそうです。

次にあの明るい点を見上げたら、お礼は、ひとまず遠くから来る彗星の分だけ言っておこうと思います(笑)。

キョウの余談

数日後の明け方にまた見に出たら、同じくゴミ出しに来たご近所さんに「何か見えます?」と聞かれました。「木星です」と答えたら「へえ」で会話が終わり、用心棒か放り込み犯かの話まではたどり着けませんでした。

キョウからの次の1本

外側の木星には、盾としてまるごと頼るわけにいきませんでしたが、地球が自前で持っている盾のほうは、私たちが毎朝無事に目覚められるのは、地球が巨大な磁場の盾で太陽風を弾いてくれてるからって話で追いかけました。彗星ではなく、太陽風を相手にした見えない盾の話です。

次回予告

次は木星から台所まで一気に戻って、IHクッキングヒーターの上で、なぜ鍋だけが熱くなるのかを解いてみます。

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