選挙のたびに出てくる、あのイヤな言葉。「死票」。
落選した人に入れた票は“死んだ”って言うんでしょ? つまり、自分の1票はゴミ?
……いやいや。ぼくみたいな小市民ほど、その言葉に心を折られがちなんだけど、ここで一回ちゃんと整理しよう。結論から言うと、数字上はゼロに見えても、民主主義の中ではゼロじゃない。むしろ、そこが面白くて、ちょっと怖くて、だから大事。
この記事では、次のことが分かるように書くよ。
- 「死票」って何を指す言葉なのか(実は2種類ある)
- なぜ死票が生まれるのか(制度の“設計思想”の話)
- 死票が「ゴミじゃない」理由(抑止力・メッセージ・次につながるデータ)
- それでも残るモヤモヤと、制度側の工夫(死票を減らす仕組み)
- 会社の会議にも「死票」はある、という話(不採用案を捨てるな)
「死票」って、何が“死んだ”の?
「死票」は、ざっくり言うと当選(=議席)に直接つながらなかった票のこと。
ただね、ここで大事なのは、死票には“だいたい2タイプある”ってこと。これを知らないと、議論がずっと噛み合わない。
| タイプ | 何が起きた票? | 例 | よくある誤解 |
|---|---|---|---|
| 落選票 | 負けた候補(または政党)に入った票 | A 49%、B 51%なら、Aに入れた49%は議席にならない | 「無意味」「消えた」 |
| 余剰票 | 勝った側に“勝つのに必要以上”に積まれた票 | 勝つのに必要なのは僅差でもOK。大差で積んだ分は議席数を増やさない | 「勝ったんだから全部意味ある」 |
| (別枠)無効票・白票 | ルール上「有効票」として扱われない/候補を特定しない票 | 記入ミス、何も書かない、など | 死票と同じ扱いにされがち |
つまり「死票」は、“負けた側の票”だけじゃなく、勝ちすぎた側の票も含むことがある。ちょっと意地悪な言い方だけど、制度の計算上そうなる。
ここまででまず言いたいのはこれ。
あなたの1票は「当選」という一点だけで評価されるものじゃない。
でも、そう言われても「いやいや、議席にならないなら負けじゃん」と思うよね。分かる。ぼくも効率厨だから。
なぜ死票は生まれるのか:勝者総取りの“設計思想”
死票が生まれやすいのは、特に1つの区から1人だけ選ぶ方式(いわゆる勝者総取り型)で起きやすい。
これ、善悪の話じゃなくて、設計思想のトレードオフなんだよ。
- 統治の安定:勝者がハッキリ出る → 政策決定が速い
- 民意の反映:得票を細かく議席に反映 → 多様な意見が残る
勝者総取り型は、前者(安定)に寄せやすい。その代わり、後者(反映)を削りがち。結果、死票が増えやすい。
逆に、得票を議席に近づける仕組み(比例寄り)は死票が減る方向に働く。でも、その分だけ議会が細かく割れて、合意形成が難しくなることもある。
要はこう。
死票は「欠陥」だけじゃなく、制度が何を優先したかの“副作用”なんだ。
「ゴミじゃない」理由①:票は“可視化”する(これが強い)
ここからが本題。
「当選しなかった票はゼロ」──数字の計算だけ見ると、確かにそう見える。でも、民主主義は数字の計算だけで回ってない。
死票の最大の価値は、不満・期待・方向性を“可視化”すること。
たとえば、ある政策を強く主張する勢力が議席を取れなかったとしても、得票が増えれば周りはこう思う。
- 「これ、無視したら次に危ないな」
- 「この層の不満が膨らんでるな」
- 「取り込めば票が増えるな」
そして政治の世界は、良くも悪くも“票が動く方へ”寄っていく。これは現実。
つまり死票は、議席という形にはならなくても、政治家の判断を揺らすデータになる。
ここで小市民的なたとえを言うとね。
あなたが飲食店で「この味付け、ちょっと濃いです」とアンケートに書いたとする。その1枚だけでメニューは変わらないかもしれない。でも、その声が積み重なると、店は変える。
死票は、それ。
「ゴミじゃない」理由②:接戦の“反対票”はブレーキになる
次。
もし当選者が「勝ったんだから好きにやるぞ」と暴走したらどうなる?
ここで効いてくるのが、死票の“量”。
勝ち方がギリギリだと、当選者はこうなる。
- 「反対側がこれだけいる。下手すると次は落ちる」
- 「強引なことやると、火がつく」
つまり、死票は勝者の背中に刺さる“監視の視線”になる。
政治家が怖がっているのは、道徳の教科書じゃなくて、次の選挙の現実だ。そこが人間くさい。そして、そこを利用して“制御”するのが民主主義のいやらしくも賢いところ。
「ゴミじゃない」理由③:票は“回り道”で生き残ることがある
ここは勘違いが多いので丁寧に。
この国の国政選挙は、投票用紙が2枚で、1枚は「人(候補)」、もう1枚は「政党」を書く方式がある(時期や選挙の種類で細部は違う)。
この仕組みの中では、候補者が「人のほう」で負けても、別ルートで当選することがある。いわゆる“復活”みたいなやつ。
しかもここがいやらしいんだけど、負け方が惜しいほど、その候補者は救われやすい。つまり、落選票に見える票が、候補者の救済順位に影響することがある。
なので「負けた候補に入れたから死票」と決めつけると、制度の中では必ずしもそうじゃない場合がある。ここは知っておくと安心材料になる。
ただし、誤解も防いでおきたい。
- 「人に入れた票」がそのまま「政党の議席」に加算されるとは限らない
- 制度は“2階建て”で、別の集計が走っている
要するに、あなたの票は「議席に直結する一本橋」じゃない。いくつかの道がある。たまに回り道が当たり前みたいに効いてくる。
それでもモヤる:死票が増えると何が困る?
死票に意味があると言っても、「じゃあ死票が多くてもOKだよね」とはならない。
死票が多すぎると、民主主義はバグりやすくなる。ここはリスクとしてちゃんと見ておく。
1)「どうせ無駄」が人を黙らせる
一番の害はこれ。政治的な無力感ってやつ。
「自分の1票で何も変わらない」→「行かない」→「組織的に動く票が強くなる」→「ますます変わりにくく見える」
この負のループが走る。
2)“勝てそうなところ”に寄って、意見が薄まる
死票が怖いと、人は「勝ちそうなところ」に寄せる。いわゆる戦略的投票。
合理的ではある。でも、その合理性が行き過ぎると、政治はこうなる。
- 本音の支持が見えなくなる
- 新しい選択肢が育ちにくくなる
- 結局、似たような政策ばかりになる
効率を求めた結果、選択肢が減る。これは仕事でもよくある地獄だよね。「標準化しすぎて現場が死ぬ」みたいな。
3)区割り(線の引き方)で“死票の偏り”が作られることがある
これは世界的に問題になるやつだけど、選挙区の線の引き方で、死票の出方が偏ることがある。
一部の地域に特定の支持層を固めたり、逆に薄めたりすると、片方は「僅差勝ちを量産」、片方は「大差勝ち(=余剰票が増える)」になりやすい。
こういう歪みが疑われると、制度への信頼が落ちる。信頼が落ちると、参加が減る。参加が減ると、さらに一部が強くなる。はい、また負のループ。
死票を減らす仕組み:世の中にはいろいろある
ここは「こうすべき!」じゃなく、単純に“選択肢の棚卸し”。
1)二回投票(決選投票)
最初で過半数が出なければ上位で再戦する方式。
- メリット:当選者の正統性が高い(過半数の支持で勝ちやすい)
- デメリット:コストが増える、投票が2回で疲れる
2)順位をつける投票(いわゆるランク式)
「第1希望・第2希望…」と順位を書ける方式。
- メリット:死票が減りやすい(第1希望が落ちても票が移る)
- デメリット:集計が複雑、説明不足だと不信感が出る
3)複数人を選ぶ比例寄りの方式
ある地域から複数人を選ぶ、比例に近い設計。
- メリット:少数意見が議席に乗りやすい
- デメリット:候補者が多いと把握が大変、政党内競争が激化することも
どれも万能じゃない。制度はいつも「何を優先するか」の取引なんだよね。人生みたいだな(急にしみじみ)。
「勝ち馬に乗る」vs「好きに入れる」:戦略的投票の功罪
ここ、めちゃくちゃ揉めるところなので、あえて両方書く。
戦略的投票の良いところ
- 「最悪だけは避ける」という現実的な防衛になる
- 接戦の時に影響力を持ちやすい
戦略的投票の怖いところ
- 本音の支持が見えなくなり、政治が読み違える
- 新しい勢力が育つ前に潰れやすい
- 「どうせ勝てない」をみんながやると、本当に勝てなくなる
ぼくの小市民的な落としどころはこれ。
「短期の損得」と「長期のメッセージ」を分けて考える。
制度によっては、投票が2枚ある。だったら、片方は“現実の防衛”、もう片方は“長期の意思表示”みたいに、役割を分ける発想もできる(もちろん、制度の細部は確認が必要)。
大事なのは、「死票が怖い」から黙るじゃなく、「死票でも意味がある」と理解した上で選ぶこと。選ぶのはあなた。
会社の会議にも「死票」はある:不採用案を捨てるな
ここから急に仕事の話。ぼくはこういうのが好きなんだ。すぐ仕事に結びつけたがる、良くも悪くも。
会議で、あなたの案が採用されなかった。いわゆる“死票”。
でも、その案が議事録にも残らず、理由も整理されず、ただ消えていくと……組織はだんだん鈍る。
なぜなら、不採用案って、たいていこういう情報を含んでるから。
- 現場が何を怖がっているか(リスク感度)
- ユーザーが何に困っているか(潜在ニーズ)
- 今の方針の弱点はどこか(盲点)
これ、選挙の死票と同じで、「採用されなかった意見」ほど、未来の事故を防ぐんだよね。
なので、小市民からの提案。
- 会議の“不採用案”を、理由つきでログ化する
- 次の見直しタイミングを決めておく
- 「反対意見が何票あったか(どのくらい強かったか)」を残す
民主主義って、社会の話だけじゃなくて、組織運営のヒントが詰まってる。ぼくはそう思ってる。
まとめ:1票は「議席を買うレシート」じゃない
最後にまとめよう。
- 死票は「負けた票」だけじゃなく「勝ちすぎた票」も含むことがある
- 死票が生まれるのは、制度が“安定”を優先した副作用でもある
- 死票は、民意を可視化し、勝者へのブレーキになり、次の変化の種にもなる
- ただし死票が多すぎると「どうせ無駄」ループで民主主義が弱る
- 大事なのは、死票を恐れて黙るんじゃなく、意味を理解して選ぶこと
効率だけで測ると、死票は確かに“ムダ”に見える。だけど民主主義は、効率だけで回すと壊れる。
ムダに見える余白が、暴走を止める。ムダに見える1票が、空気を変える。
……いや、キレイに言いすぎたな。現実はもっと泥くさい。でも、その泥くささを動かす燃料が、案外こういう「一見ムダな票」だったりするんだよ。

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